「THE GATE(仙台協立第12ビル)」 「WIDEFOOD株式会社(ワイドフード株式会社)」代表取締役 伊藤直之さん

仙台駅から徒歩5分。AER(アエル)向かいの仙台協立第12ビル「THE GATE(ザ ゲート)」は、5階建ての小さなビルながら、駅前の人が絶えず行き交う場所という好立地でビジネスの可能性を広げます。1階には「かたい信用 やわらかい肉 」のキャッチコピーでお馴染みの『肉のいとう』から「仙台牛・牛たん 焼肉のいとう」が出店しています。運営会社「WIDEFOOD株式会社(ワイドフード株式会社)」二代目の伊藤直之社長へ、事業の内容や、東北の企業が抱える課題についてお話を伺いました。
コロナ禍に立ち上げた新規事業
「飲食店」への挑戦
ー 事業内容について教えてください。
私の父が創業した「肉のいとう」はBtoC(企業から一般消費者向けのサービス)のビジネスモデルで大きく分けて3つの軸を持っています。創業当時から行なっている惣菜や生肉加工などの対面販売を重視した「販売事業」、自社サイトや各種ECサービスでの「オンライン通販事業」、そして2021年から新たに取り組みを始めた「飲食事業」です。そのほか、海外輸出や太陽光発電、M&A(買収や合併 ※1)により事業継承した3社の代表を務めています。

ー(氏家)「肉のいとう」の飲食店はここ数年、当ビル以外にも仙台駅構内、仙台駅東口など出店に勢いを感じておりましたが、初出店の2021年はコロナ禍で飲食業界が大打撃を受けていた頃と記憶します。その中で、新規事業として飲食店出店へ挑戦した理由を教えていただけますか。
飲食店事業を始めたきっかけは3つありました。一つ目は、2020年のコロナ流行当時、弊社は通販と販売のみでしたが、飲食店や宿泊業の休業や撤退により離職した方が数名中途入社され、これまでの職種とは大きく異なるであろう惣菜や弁当の製造や販売へ就いてくれました。コロナが落ち着いた段階で彼ら、彼女たちが飲食業をしたいと思っていたら、飲食店を始めたいと思うようになりました。
二つ目は、お客様から精肉、弁当、通販以外で、「焼肉店として、肉のいとうをお酒を飲みながら楽しめないか」というご要望が少なからずあったことです。
そして三つ目に、飲食店として名高い名店には、精肉店をスタートとした企業がいらっしゃるということも決め手になりました。弁当販売だけではなく、割烹やレストラン、焼肉店などは私たちにとって「チャレンジをしないといけない領域」だと、飲食店で勝負する決断にいたりました。
「肉」の可能性は無限大
最もお客様に喜んでいただけるスタイルの模索
仙台駅構内tekute(てくて)「肉のいとう 仙台駅1階店-MeatStage-(ミートステージ)」は、店内飲食だけではなく、お弁当や惣菜などで「仙台牛」を手頃に、手軽に味わえる店舗として駅利用者の支持を集めています。

(肉のいとう 仙台駅1階店-MeatStage-外観|提供 WIDEFOOD株式会社)
ー(氏家)飲食店でありながら、仙台牛弁当や仙台牛を使った惣菜を手頃な価格帯で購入できる。この営業スタイルや、商品はどのようにして生まれたのでしょうか。
私が事業継承を決意し、仙台に戻ってきたのは2014年ですが当時「仙台牛」の全国的知名度は低く、正当に評価されていませんでした。仙台にはすでに「牛たん」のイメージが強く定着していたことも要因の一つだと考えます。
そこで、最初に取り組んだのが仙台牛を使ったコロッケなどの惣菜メニューの開発でした。百貨店で開催される「宮城県物産展」に「牛たん弁当」だけではなく「仙台牛弁当」や、牛たんと仙台牛のハーフ&ハーフの弁当を販売するところからスタートしました。徐々に全国の百貨店催事へ呼ばれる回数が増え、次に「東北物産展」「全国うまいもの大会」とステップアップを重ねていく中で、各地の銘柄牛に負けないよう試行錯誤した販売スタイルが「肉のいとう 仙台駅1階店-MeatStage-」に反映されています。これまでの営業スタイルや、通信販売とは異なるスタッフの業務知識を得たことも飲食店への道が拓けた大きな転機です。

ー(氏家)宮城県内だけではなく、全国各地での実績を積み重ねての出店なのですね。実際に飲食店を運営してみて感じることはございますか?
通信販売、対面販売、飲食店とそれぞれ経験してみますと、率直に効率が良いのは通信販売だと感じます。全国のテレビ放映で話題になっても短時間で多くの注文に応えることができますし、受注生産型なのでロスも最小限です。
一方で、飲食店は新規出店の際の設備投資や、スタッフの採用や育成、シフト調整などの人材管理、継続的な集客などの面で苦労が重なります。この苦労をどのようにして取り除くかが課題となってきそうです。
ー(氏家)現在5店舗展開している飲食事業の特徴をお伺いできますか。
現在、飲食店の直営店は5店舗ありますが全て業態やコンセプトが異なります。AER、仙台駅前に位置するこのビルの「仙台牛・牛たん 焼肉のいとう」は、女性が一人でも焼肉を楽しめることをコンセプトにしています。仙台駅構内の「炭火焼鳥 肉のいとう」は、事業継承をした福島県の鶏肉の加工処理会社から流通業者を介さず鶏肉を仕入れることで手頃な金額でご提供できるほか、「ブランド地鶏」の食べ比べなど独自のメニューを提供しています。

(仙台牛・牛たん 焼肉のいとう 店内風景|提供 WIDEFOOD株式会社)
仙台駅東口には、牛タン専門店でありながら居酒屋の店舗、焼肉とタンしゃぶを両方楽しめる店舗の2店舗があります。名古屋は、夜のみの営業ですが、高単価で接待などに向いている店舗です。
「肉」は飲食店の可能性を広げてくれます。目の前でステーキを焼く鉄板焼き、生姜焼き、大衆的な定食屋、おしゃれなバル……。その中で、私たちはどの業態に一番ニーズがあり、一番自信を持って提供できるのかを模索し、挑戦を続けていきたいと思っています。
地方の”後継者不足”にM&Aで向き合う
ー 先ほどは、飲食店の事業継承が持つ可能性についてお話を伺いました。伊藤社長はすでに数社事業継承をされておりますが、その中で大切にしている想いや取り組みはございますか。
事業者の方と面談を行う際に必ず質問することがあります。
「20年前に戻れるなら、何をしたかったですか?」
当時やりたかったけれどできなかったこと、振り返るとやっておくべきだったことをお話しいただきながら対話を重ねると、自分が代わりに成し遂げられそうなことや、取り組むべき道筋が見えてきます。
また、地元企業として取り組んでいることは大切にしていきたいと考えています。例えば、事業継承をした福島県の会社は、福島県唯一の大規模食鳥処理場としてブロイラーの処理・加工を行いながら、大規模食鳥処理場としては珍しく地鶏の解体・加工も手がけていました。大手企業に買収されてしまうと、ブロイラーのみの加工に限定され、地元の地鶏や銘柄鶏の加工場がなくなる懸念があります。事業者だけではなく、地元の人たちのことも考え大切に事業を引き継いでいきたいと考えています。
その中でも、東北人に多い「いいものを安く売ろう」「わかる人だけがわかってくれればいい」という思考ではなく、ちゃんと商品価値を伝える努力や、適正金額で流通し、利益を上げることで従業員の給料を上げ、雇用を守り、新しい人材を採用できるという循環をしっかりと作り上げていきたいですね。

会社概要
WIDEFOOD株式会社(ワイドフード株式会社)
〒980-0813 仙台市青葉区米ヶ袋1-6-8
公式WEB:https://www.widefood.jp/仙台牛・牛たん 焼肉のいとう 仙台駅前店
〒980-0021 仙台市青葉区中央1丁目7−39 仙台協立第12ビル 1階
※1 M&A
「Mergers and Acquisitions」(合併と買収)の略で、資本の移動を伴う企業の合併と買収を指す。本文中では後継者不足による「事業継承」が目的となる。