入居者インタビュー|協立2ビル「株式会社 プラスヴォイス」 代表取締役 三浦 宏之さん

2025.12.01
入居者インタビュー|協立2ビル「株式会社 プラスヴォイス」 代表取締役 三浦 宏之さん

協立一ビルに隣接する協立二ビルは、テナントオフィスのほか、会議や面接会場など用途に応じた多様なレンタルスペースを提供しています。8階にオフィスを構える「株式会社プラスヴォイス」は、聴覚障がい者が手話で暮らし、働くためのシステムと社会づくりを推進しています。代表取締役の三浦宏之さんへ、事業の取り組みや手話のある社会についてお話を伺いました。

聴覚障がい者が自分の言語で暮らし、働くための社会づくり

ー 事業の内容について教えてください。

事業は大きく分けて3つあります。

一つ目は、手話通訳事業(ICT事業/インフォメーション アンド コミュニケーション テクノロジー)です。通訳オペレーターが、ろう者と聴者の間に入りスムーズにやり取りできるよう手話と音声で通訳します。

二つ目は、システムソリューション事業です。ろう者とのコミュニケーションをサポートするためのアプリケーションやシステムの開発などを主にしています。

三つ目は、メディア事業です。プロフォトグラファーやクリエイターによって、子どもたちのスポーツの記録を残す「スポーツフォトライブラリー(以下:スポフォト)」の作成や、撮影・編集・制作を行なっています。この事業は、障がい者の就労支援事業としての側面も併せもっています。

ー 障がい者の中でも「聴覚」に特化しサービスを展開しているのは、どのような経験やきっかけからなのでしょうか。

司会業をしていたときに担当した、ろう者の結婚式が手話との初めての出会いでした。笑って欲しい場面で反応がなく、自分の声が届いている感触がありません。けれど会場は幸せそうに笑いながら手話で会話をしている人たちであふれていました。聴覚障がい者という福祉的なイメージが変わり、手話に興味を持ちました。

その頃、PHSや携帯電話にメール機能がつき始め、文字で会話ができる時代になりました。聴覚障がい者にも使いやすい端末(着信音ではなくバイブレーション搭載など)を作ろうと1998年に起業をしました。

ー(氏家)まさに黎明期でしたね。通信で社会課題を解決する発想は珍しかったのではないでしょうか。

当時はFAXが主流で、聴覚障がい者が在宅していないと連絡が取れませんでした。「携帯で文字を送れる」というのは革命的でしたね。その中でも、携帯電話はセンター経由で配信され受信者側が取得する仕組みで、PHSは割高ですが相手に直接届く仕組みでした。人生が変わったと涙を流して喜んでくれる人が多かったです。

遠隔手話通訳サービスの元になったのは、2000年頃ろう者の友人から119番通報をしてほしいとSOSが届いた出来事です。ビデオ電話を繋げながら、消防とのやりとりを通訳した経験から需要に気付きサービスを開始しました。

現在、日本にはろう者が約9万人、難聴者を含め障害者手帳を持っている人が36万人いると言われています。補聴器を使用している人は1900万人です。これだけ多くの人が、”聞こえ”のコミュニケーションに困っています。

自分の言語で会話するということ

プラスヴォイスでは仙台、東京、大阪の三拠点に60名の手話通訳者が在籍しています。サービスの利用は、スマートフォンでQRコードを読み込むだけなのだそう。

せっかくなので、手話通訳を介してコミュニケーションをとってみましょう。(通訳者の呼び出しと、両手が使えるようスマートフォンを固定)

三浦/(通訳者が手話通訳で表現)社長と久しぶりにお会いできてうれしいです。以前お会いしたのは10年くらい前でしたね。社長は変わらずかっこいいですね!

(氏家)すごいですね! 私が話している音声を通訳者さんが画面上で通訳をして三浦社長へ伝えてくれるんですね。ほとんどタイムラグもなく、筆談と違ってジョークなども交えて会話ができますね。

ろう者は日本人であり日本に住みながら、海外の人よりも生活しにくい環境に置かれています。

聴者同士は言葉が違えど「音声言語」でコミュニケーションをとることができます。難聴者は、自分の言葉を音声で伝えることができるため音声で相手に伝え、スマートフォンなどの音声認識された相手の声を「視覚日本語」でコミュニケーションが可能です。

ろう者は本来「手話」を言語にすることを法律で定められている中で、筆談や打ち込みなどの「視覚日本語」に置き換えて対応することがほとんどです。

(氏家)実際に自分自身が困った経験がないため意識が向きませんでしたが、お話を伺うとさまざまな面でご苦労をされている方がいらっしゃると想像ができるようになりますね。

例えば、災害時には防災無線の放送や、ラジオの情報をろう者は理解することができません。普段通訳者として側にいてくださる方も、被災地では同じく被災者です。遠隔でさまざまな地域から手話通訳以外にも文字要約などでサポートが必要です。

また、コロナ禍においては病院の受診に手話通訳者が同行できない状況が長く続きました。これまで手話通訳者や家族が側にいるから不要とみなされがちだったサービスの必要性が顕在化し、遠隔手話通訳サービスを知るきっかけになった方も多いと思います。

(聞き取り通訳中の画面)

AIの普及で変化していく手話の在り方

(氏家)先ほど、手話通訳オペレーターの方を介して会話をしましたが、手話が言語として形があるものとすれば、近い将来、翻訳機能のようにAIなどを介してろう者とやりとりすることは可能になるものなのでしょうか。

可能性はあります。例えば、受付業務やオペレーション化されたやりとりであれば近い将来実現しているのではないかと考えます。しかし、会話に齟齬や語弊があることに気がついたり、ニュアンスの違いを感じたり、表現するには高い壁があるかと思います。

AIによる手話サービスの普及により、手話通訳者の活躍の場が狭まるのではないかという懸念も耳にしますが、両者の活躍により、ろう者はどこでも当たり前に手話で生活できる社会ができていく。きっと手話通訳者の活躍の場は増えていくと考えています。

(氏家)プラスヴォイスとして、システムソリューション事業で展開している内容を教えていただけますか。

今、プラスヴォイス公式WEBサイトの社長挨拶には私の音声と、手話通訳者の映像が使用されています。これをAI技術を用いて私自身が話し、手話をする映像にすることが可能になりました。

これには、まだ人数の少ない手話通訳者の中から聞こえてくる「特定されたくない」というニーズに応えたり、映像を利用する企業様に対してより長く映像が利用できたり、コンプライアンス面での利点も生まれています。

聴覚障がい者達の「クリエイター」としての働き方

プラスヴォイスのメディア事業部では、聴覚障がい者にプロフォトグラファーや、デザイナーとして育成し活躍してもらっています。聞こえない人は、視覚情報の割合が大きい分、視覚的な能力が高いと考えているからです。

就職先に悩む方も多いので、働き方の一つとして選択肢を増やせたらと思います。現在、仙台オフィスでは「スポフォト」として、宮城県や福島県の高校野球連盟と契約し高校野球の撮影や、サッカー、バレーボールの大会での撮影を行なっています。

仙台オフィスでは撮影後のデータを編集し、印刷や加工、発送業務も行なっています。デフ(耳が聞こえない、聞こえにくい)アスリート33名を取材した冊子も作成し、発売も予定しています。この冊子では、選手はもちろん、フォトグラファーもライターも聴覚障がい者です。

また、本年11月にはデフリンピックが日本初開催され、弊社のデフフォトグラファーもオフィシャルフォトグラファーとして活躍の場をより広げる挑戦ができました。

「合理的配慮」義務化の時代に当たり前の対話を可能にしていくこと

2024年4月から「合理的配慮の提供」が法的義務になりました。これまでは努力義務事項だったため対応しない企業も多くありましたが、今後は「聴覚障がいのある方は訪問してこないので対応しません」では済まされません。

その上で、多くの企業は聴覚障がい者に対して筆談対応の選択肢をとることでしょう。ですが、本来は「同じ体験を共有できること」が合理的配慮の根幹です。

例えば、不動産の契約や保険説明のような内容が複雑な場面では、手話通訳の有無が理解度を大きく左右します。銀行やカード会社では、本人ではないという法的理由で通訳者や家族であっても手続きが行えない場面も多く存在します。私たちの役目は、そうした当たり前の対話を可能にしていくことです。

現在「遠隔手話通訳サービス」は、全国の大手企業や行政窓口、企業の相談センターなどに導入されています。

受付などからスマートフォンでQRコードを読み込むだけで、手話通訳者が画面上に現れて会話を仲介します。企業にとっては、合理的配慮の義務化に対応する手段であり、聴覚障がい者にとっては社会参加の扉が開かれる仕組みです。

「できる」を知らないろう者へ

ー プラスヴォイスの今後の展望についてお聞かせください。

聴覚障害者へ困っていることはないか尋ねると「困っていない」と返されます。理由は「筆談で対応できるから」です。

「筆談で対応できる」は仕方なく筆談しているのだということに、社会もろう者自身も気付いていません。彼らの言語である手話で聴者たちと会話ができること。窓口での手続きや契約手続きだけではなく、日常会話や、レストランでの注文が手話でできるということ。

当事者たちが「世界はこんなもの」と思っていることが、そうではないという選択肢を増やし広めていきます。

ー(氏家)ありがとうございます。実際にサービスを通して、筆談とは違う会話としてのテンポ感やニュアンスまで伝わるのだと体験できました。「選択肢を増やす」という部分で、仙台協立の受付にも手話遠隔サービスを導入してみます。本日はありがとうございました。

アイラブユーの手話

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